トヨタの知財戦略:SiCが拓く次世代モビリティ


全方位の技術革新:SiC材料からモジュール構成まで

トヨタ自動車およびトヨタグループの知的財産(IP)戦略は、次世代パワー半導体の中核である**SiC(シリコンカーバイド)**技術を、材料から最終製品まで垂直統合的に保護することで、電動化社会における確固たる地位を築くことを目指している。

その戦略は、1990年代から2000年代初頭にかけ、SiCの結晶成長技術や基板・デバイス構造に関する初期特許出願に始まる。2010年から2011年にかけては、量産型ハイブリッド車(HEV)向けのPCU(パワーコントロールユニット)に搭載するSiCデバイスの開発を本格化。トヨタの研究開発部門(Toyota CRDL)やデンソーとの共同出願が活発化し、SiCデバイスおよびモジュール技術に関する特許を集中して出願した。

2020年以降、トヨタは第2世代の燃料電池車「Mirai」にSiCパワーモジュールを実装し、そのデザインやデバイス構成に関する特許を登録している。さらに、チャンネル移動度改善のための結晶面など、SiCデバイス構造に関する特許も深掘りして複数取得している。これは、SiC材料からデバイス、モジュール構成に至るまで、サプライチェーン全体を網羅する知財体制を整備することで、電動化基盤の中核技術を高いバリューチェーンとして価値化する狙いがある。


実装と信頼構築:SiC技術の実用化を証明

トヨタの知財戦略は、特許の取得だけに留まらない。その技術を実際の製品に実装し、具体的な成果を示すことで、市場の信頼を構築している。

SiCを搭載したPCU(試作車)では燃費を5%以上改善。さらに2025年6月発表の量産型EV「bZ5」でも、ローム製のSiC MOSFET搭載インバータを採用するなど、SiC技術の実用性と商業実装を証明している。これにより、知財が単なる技術的保護だけでなく、製品の優位性を示す強力なマーケティングツールとして機能しているのだ。SiCの導入によりPCUのサイズを80%縮小し、効率を向上させたことは、CO₂低減部品軽量化という持続的なモビリティ設計の推進に繋がり、知財社会価値の両立を図っている。


未来への展望:SiCが拓くモビリティの進化

トヨタのSiC知財戦略は、未来のモビリティ社会を先導するための明確な展望を持っている。

‐EVパワートレイン全域への適用:SiCによるインバータの低損失・高効率化は、電気自動車の性能を根本から向上させる基盤技術となるだろう。

‐燃料電池車や脱炭素社会への貢献:「Mirai」系車両へのSiCモジュール応用は、次世代燃料電池車(FCEV)の開発を推進し、脱炭素社会への貢献を目指す。

‐サプライチェーンと国際標準での優位性:SiC関連特許は、グローバルなサプライチェーンにおける技術的リードを確保する上で不可欠であり、国際標準での発言権を強める土台となる。

‐未来のスマートモビリティへの応用:SiCによる小型・軽量・高効率な電力デバイスは、未来の自律案内やスマートモビリティを支える主要な基盤技術へと発展するだろう。

総じて、トヨタの知財戦略は、グループ内の技術協力を通じて多角的に展開されている。SiCパワーモジュールに関する知財は、未来のモビリティの性能、効率、信頼性を支える重要な柱であり、トヨタがこの分野でのリーダーシップを確立し、維持するための鍵となるだろう。

参考URL:

トヨタ自動車 公式サイト(ニュースリリース・技術情報): https://global.toyota/jp/

ローム公式サイト(SiC MOSFETに関するニュースリリース): https://www.rohm.co.jp/news-and-events/news/2025-06-01-sic-mosfet-adopted-for-toyota-bz5

SiC技術導入によるHV燃費改善・PCUサイズ削減の歴史的発表 – トヨタ公式サイト(Toyota Develops New Silicon Carbide Power Semiconductor with …): https://global.toyota/jp/detail/1722896

Denso SiC Power Module in Toyota Mirai II – System Plus Consulting: https://www.systemplus.fr/reports/denso-sic-power-module-in-toyota-mirai-ii/

SiCに関する特許情報(米国特許商標庁など): https://www.uspto.gov/

コメントを残す