AIと5Gの革新:ファーウェイの技術的リーダーシップ


黎明期:グローバルIP体制の構築と技術への投資

ファーウェイ・テクノロジーズの知的財産(IP)戦略は、グローバル展開と密接に結びついている。同社は、中国本社に加え、ヨーロッパ、アジア太平洋、アメリカ、米国にIP部門を設立し、世界中に分散したIPチームを擁していた。これは、初期段階からグローバルな事業活動を保護し、各地域の研究機関のイノベーションを支援する体制を構築していたことを示すものだ。2008年には、ファーウェイの欧州IPR部門が設立され、AI、自動車、低炭素などの主要分野で欧州パートナーとの共同技術開発に注力し始めた。


5GとAIにおける技術的リーダーシップの確立

2016年から2019年にかけて、ファーウェイは5G通信技術とAI分野への大規模な研究開発投資を通じて、基盤技術の特許取得を加速させ、これらの分野でのリーダーシップを確立した。この時期の出願には、「光ネットワーク向けの拡張可能なシリコンフォトニクススイッチングアーキテクチャ」や「ネットワークトポロジーを発見する方法およびデバイス」といった、将来の高速通信インフラの基盤となる技術が含まれている。

2017年には、専用のニューラルプロセッシングユニット(NPU)を搭載した初のデバイスレベルAIチップ「Kirin 970」を導入。2018年には、高性能な7nmプロセスを採用した「Kirin 980 NPUチップ」をリリースした。2019年にはAIチップの特許出願がピークを迎え、データセンターおよびクラウドAI向けに設計された「Ascend 910チップ」を発表。この時期までに、ファーウェイは5G、Wi-Fi 6、H.266などの主要な標準をリードする存在となった。

この期間の特許戦略は、通信、AI、IoTなどの産業の基盤を形成する技術の特許取得に継続的に投資することで、ファーウェイを必須技術の「ゲートキーパー」として戦略的に位置づけ、競合他社や協力者がファーウェイのエコシステムに関与することを確実にすることを目指していた。


地政学的逆風と戦略的適応

2019年後半以降、米国を中心とした地政学的緊張が高まり、ファーウェイは事業環境の大きな変化に直面する。これに対し、同社はIP戦略を適応させ、新たな収益源と市場機会を模索する。2019年には米国国防権限法(NDAA)の規定により、米国連邦政府がファーウェイからの機器調達を禁止し、同社はサンタクララの研究センターの従業員を削減し、カナダへの移転を発表した。

制裁下でも、ファーウェイは半導体技術の革新を継続する姿勢を示し、「メモリチップ積層パッケージおよび電子デバイス」に関する特許を出願した。2020年11月には、米国制裁下での「生き残り」を確保するため、Honorブランドの携帯電話事業を売却。英国やスウェーデンもファーウェイの5G機器の導入を禁止するなど、厳しい市場アクセス制限に直面した。しかし、2021年には欧州特許庁(EPO)から付与された特許件数で1位にランクされ、欧州市場における技術的影響力とIP活動の継続性を示した。2021年7月には、ファーウェイとVerizonが2020年の特許侵害訴訟で和解に達し、紛争解決への柔軟な姿勢も見せた。この時期、ファーウェイは、通信インフラ以外の分野、例えば自動車産業へのIPライセンス供与を通じて、新たな収益源を模索し始めた。


IPの収益化とエコシステムの拡大

地政学的逆風が続く中、ファーウェイは既存の特許ポートフォリオを積極的に収益化し、新たなエコシステムを構築することで、事業の多角化を進めている。過去5年間で、20億台以上の非ファーウェイ製スマートフォンがファーウェイの4G/5G特許のライセンスを受けている。また、自動車産業のデジタル変革を支援するため、4G/5Gセルラー特許ポートフォリオを公開しており、現在、年間約800万台のコネクテッドカーがファーウェイの特許のライセンスを受けている。

フォルクスワーゲン(VW)のサプライヤーとの間では、3,000万台のVW車に4G技術をライセンス供与する大規模な契約を締結し、自動車産業における同社最大のライセンス契約となった。HarmonyOSのエコシステムは、10億台以上のデバイスにインストールされ、720万人以上の開発者を擁し、量から質への転換期を迎えている。


将来の戦略的示唆:IPを通じたレジリエンス

ファーウェイの知的財産戦略の進化は、未来に向けていくつかの重要な示唆を提示している。まず、IPを通じたレジリエンスと多角化だ。厳しい制裁下でも、ファーウェイは既存の特許ポートフォリオを新たな分野(特に自動車産業)で収益化することで、事業のレジリエンスを高め、多角化を進めている。これは、IPが企業の事業構造の変化に適応し、新たな収益源を生み出すための重要な資産となり得ることを示している。

次に、エコシステムと標準の支配だ。ファーウェイは、通信、AI、IoT、自動車などの基盤技術を特許化し続けることで、これらの産業における「ゲートキーパー」としての地位を維持し、エコシステム全体の発展を形成しようとしている。これは、IPが市場の方向性を決定し、競合環境を形成する強力な手段となることを意味する。

また、ファーウェイは、研究開発投資への合理的な補償を確保しつつ、イノベーションへのインセンティブを保証し、業界内で持続可能なエコシステムを育成することを目指す「バランスの取れたライセンス哲学」を維持している。これは、紛争を回避し、協力関係を促進するための重要な要素だ。

最後に、AIとコネクテッド技術への継続的な注力だ。AIチップ、インテリジェントドライビング、HarmonyOSなどの分野への継続的な投資と特許取得は、ファーウェイが未来のデジタル化された社会において、AIとコネクテッド技術が中心的な役割を果たすという戦略的確信を持っていることを示している。

参考URL:

[1] ファーウェイ・テクノロジーズ 公式サイト (ニュースルーム/IR/技術情報): https://www.huawei.com/jp/

[2] ファーウェイ、5G特許でライセンス収入増、欧州特許庁の特許件数でトップに – CNET Japan: https://japan.cnet.com/article/35168019/

[3] ファーウェイが自動車メーカーに特許ライセンスを供与する理由 – ロイター通信: https://www.reuters.com/business/huaweis-licensing-deals-show-push-new-revenue-2022-04-14/

[4] ファーウェイとVerizonの特許侵害訴訟の和解に関する報道 – The Wall Street Journal: https://www.wsj.com/articles/huawei-and-verizon-settle-patent-lawsuit-11626084000

[5] ファーウェイの5GとAIへの投資に関する報道 – Bloomberg: https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-11-23/huawei-has-invested-21-billion-in-5g-technology-ren-zhengfei-says

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