メタバースの「触感」を創造:シャープの挑戦と知財の布石
VR/xRの世界において、ユーザー体験(UX)の新たな要素として「触覚インターフェース」の重要性が高まっている。シャープ株式会社は、社内新規事業制度「SHARP 01 PROGRAM」から生まれたハーフグローブ型触感コントローラーのプロトタイピングを進めている。このデバイスは、Mogura VRや電ファミニコなどの主要メディアに取り上げられた。
この試作機の最大の特徴は、指先ごとに異なる質感を再現できる「分割振動素子」を搭載している点だ。従来の単一的な振動だけでなく、さらさら、ざらざらといったテクスチャー表現を可能にする。また、コントローラー操作との併用が可能なハーフグローブ構成を採用し、ユーザーはVR空間での没入感を高めつつ、直感的な操作を維持できる。シャープは、触覚提示における「質感の再現性」を、技術差異化点として設定している。
シャープは、触覚提示の方式多様性(振動・電極)と、入力と出力の一体化という方向性に関する特許出願を進めている。これには、ジェスチャー対応のマンマシン・インターフェース(振動触覚)に関する技術や、データグローブ型入力デバイスにおける触覚入力やスワイプ対応技術が含まれる。さらに、指先に電気刺激を与える小ピッチ電極による触覚提示技術も出願している。しかし、2025年7月時点で、報道されている試作機に直接一致する出願はまだ公開されていない。シャープは、これらの特許技術を基盤とし、多様な形式と用途にわたる技術を保護している。例えば、指ごとに振動デバイスを備え振動パターンを生成するデータグローブ、VR/AR用グローブのメカ構造、指先装着型ユニットのセンサーと触覚出力、医療リハビリ用途の臨床力覚センサーグローブといった技術の開発を進めている。
知財戦略:多層的ポートフォリオと応用展開
シャープの触感グローブにおける知財戦略は、その開発プロセスにおいて特徴を持つ。実機提供を「国内・登録制」に限定している。この開発は、社内アクセラレーターである「SHARP 01 PROGRAM」を母体とし、プロトタイピング優先、早期実装重視で進められている。
この触感グローブのIPポートフォリオは、その多用途性と廉価性という強みを持つ。これは、様々な応用展開に耐えうる汎用性を示す。
ゲーム/eスポーツ:
微細な振動やテクスチャ再現による没入感強化に貢献。廉価な構成で広いユーザー層へのアプローチが可能だ。
教育/リハビリテーション:
模擬触覚を通じてピアノ学習や医療手技のシミュレーション、リハビリ用途での活用が可能。
遠隔操作・ロボット制御:
テレプレゼンス時のフィードバック補助として活用可能。
シャープは、既存の触覚技術を基盤としつつ、センサー統合や指トラッキング技術などを組み合わせ、複合的な保護を築いている。
感性×HCI:シャープが目指す次世代UX
シャープの「触感グローブ」は、視覚や音声の限界を補完する新たなHCI(Human-Computer Interface)として、その可能性を追求している。
同社は、触覚エレメント制御技術に関する特許の公開に向けて開発を進めている。また、国内での量産試作とB2B販売(xR教育、eスポーツなど)を計画している。OEM展開も検討する。さらに、触覚データ形式の標準化とフォーマット特許化を目指し、他社のxR機器へのプラットフォーム提供を視野に入れる。将来的には、医療やロボティクスとの接続を視野に入れたマルチセンサー統合グローブへの進化を検討しており、フォースフィードバック機能の統合も進めている。
シャープの「触感グローブ」は、没入型社会における重要な役割を担う可能性を持つ。戦略的な情報制御と、用途特化型の廉価な実装により、次世代ユーザー体験の「触覚」を知財で守る布石が進行中だ。これは、感性とテクノロジーを融合させ、人間とコンピュータのインタラクションを深化させる、未来志向の「感性特許」戦略の好例である。
参考URL:
[1] Mogura VR – シャープのハーフグローブ型VR触感コントローラーが注目される理由:
https://www.moguravr.com/sharp-haptics-controller/
https://smhn.info/202507-sharp-vr-2
[3] J-PlatPat 特許情報プラットフォーム: https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
特開2025-095493/特開2025-074519/特開2025-040382




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