Orcan Energy 廃熱を電力に:知財戦略と市場占有


廃熱を「電力」に変える:革新技術の起源と知財基盤

地球温暖化とエネルギー問題が深刻化する中、産業活動で大量に発生し、これまで捨てられていた「廃熱」を有効活用する技術が注目されている。ドイツのOrcan Energy(オーカンエナジー)は、この未利用エネルギーを電力に変える、有機ランキンサイクル(ORC)技術のリーディングカンパニーだ。2008年にミュンヘン工科大学(TUM)発のスピンアウトとして設立された同社は、少数の初期特許(約8件)を大学から取得し、これを投資獲得の重要な鍵として活用。その知的財産(IP)戦略は、まさにその成長の原動力となっている。

現在、Orcan EnergyのIPポートフォリオは、27の特許ファミリー、約180件の出願(うち約130件が成立)にまで拡大している。この強固な知財基盤は、同社の技術的優位性を確立する上で不可欠だ。彼らの初期コア技術(2010年~2013年)には、二段圧力レベルを備え、中間圧流体注入を可能にするシングルロータ円形ターボエキスパンダ技術がある。これは、高効率化と小型化を両立するORCシステムの中核技術だ。また、キャビテーション防止機構によるコンパクトなORC機器設計を含む、循環システムの熱力制御技術もこの時期に保護している。これらの特許は、Orcan Energyが市場に参入し、技術開発を加速させる上での揺るぎない土台となったのではないだろうか。


標準化とモジュール化:知財が牽引する市場独占戦略

Orcan Energyの知財戦略は、単なる技術保護に留まらない。特許資金調達提携のための重要な鍵として活用し、市場独占と模倣防止、そして製品の標準化モジュール化を強力に推進している。同社のCOOであるAndreas Schuster氏は、「170件の特許ポートフォリオが国際展開や資金調達で極めて重要」と語っており、特許が交渉と信頼構築の支柱であることを明確にしている。

制御・運用領域における特許(2017年~2022年)もその戦略の重要な一部だ。流体蒸発、漏洩検知、サーマルサイクル制御など、ORC機器の信頼性や自律運転性を高める技術群を保護している。また、複数モジュール構成での運転最適化や保護などを制御するシステム制御に関する特許も取得。さらに、接岸プロセス液冷却装置やORC機器の総合設計として、エネルギー変換効率と用途の汎用性を強化した特許群も存在し、製品の適応範囲を広げている。

Orcan Energyは、初期のORC標準構成が模倣されるリスクを見据え、積極的な出願国際展開により特許網を形成している。特に、URコントロールや漏洩防止といった技術細部にわたり強固に保護することで、競合他社の参入を困難にしている。Orcanの主力製品である「Efficiency PACK」モジュール(20~30kW)は、これらの特許技術インテリジェント制御を組み合わせたものであり、工場、海船、発電所向けに汎用的に展開されている。特許が製品の標準設計の核となり、技術保護と収益構造を両立させる仕組みを構築しているのだ。


「分散型ゼロエミ電源網」の未来:知財が拓くグローバル展開

Orcan Energyは、知財を軸に「廃熱を社会の主電源に変える」という壮大な未来像を描いている。これは、単なる機器の製造エネルギー供給に留まらず、両者に不可欠な技術特許で保護し、グローバルに展開する知財経営モデルである。

彼らが描く未来像の一つは、産業界で年間約50%もの発電エネルギーが熱として「捨てられている」という現状を解決することだ。工場、船舶、LNGプラント、バイオガス施設など、あらゆる「温度差」を持つ現場に、小型のモジュール型ORC装置を展開し、これらの装置群をクラウド制御することで、電力の最適回収・分配を行う「分散型ゼロエミ電源網」を構築する構想である。この構想では、各分散地点の流体制御、データ処理、温度制御の自律的な連携技術を統一した出願戦略で保護しており、まさにエネルギー版IoT的な知財アプローチと言える。

さらに、“移動する発電所”としての海洋用途拡大も視野に入れる。船舶は従来、エンジンや排気からの熱を捨てていたが、Orcan Energyは既に国際船舶市場への導入を開始。今後は「洋上で発電+売電」という新たな価値創出を目指し、海水冷却、塩害対策、傾斜時出力制御など、船舶固有の課題に対するノウハウ出願を蓄積し、他社参入障壁を構築中のようだ。

将来構想としては、各発電ユニットに搭載されたセンサーソフトウェアAIで学習・最適化させ、地域や設備ごとの運転履歴をもとに、熱量変動に応じた自己進化型発電”を実現。最終的には、自律的なメンテナンス、故障予測、電力最適売却まで行う知的機械群へと進化させる。この実現のため、自律的な動作判断や自己最適化機構ソフトウェア制御系特許を申請をするのではないだろうか。

Orcan Energyは、単に機器を製造するだけでなく、「発電技術を売る」IPライセンス事業へと移行しつつある。エネルギー会社、重工メーカー、政府系プロジェクトなどに対し、ORC技術群ライセンス提供し、グローバルでのパートナー展開を図る。国際PCT出願地域別登録の明確化により、国や産業ごとにライセンススキームを差別化することも可能になる。Orcan Energyは、脱炭素化エネルギー回収という地球規模の課題に対し、特許を軸としたモジュール技術で持続可能な未来像を描く知財経営モデルを形成しようとしている。


参考URL:

[Dyckerhoff工場でORCシステム稼働開始(2024年5月)
モジュール型ORCシステムによって廃熱発電を実現した事例。産業現場での技術の有効性と市場適用性が示されています。
https://www.orcan-energy.com/en/details/dyckerhoff-generates-green-electricity-from-waste-heat-new-orcan-energy-orc-system-commissioned-at-the-geseke-plant.html link.epo.org+15orcan-energy.com+15orcan-energy.com+15

CEMEXとの大規模脱炭素パートナーシップ(2024年2月)
グローバル建材企業との協業により多拠点でORC導入が進む事例。技術のスケールとPoCから実稼働への移行が確認できます。
https://www.orcan-energy.com/en/details/cemex-and-orcan-energy-extend-existing-waste-heat-recovery-collaboration-to-a-broad-decarbonization-partnership.html electricalsinformed.com+4orcan.energy+4orcan-energy.com+4

**Chevron(米国油田)での初プロジェクト稼働**(2022年11月)
米国油田分野において、Baseload Capitalと連携したORCソリューション導入の実績。国際展開の証左です。
https://www.orcan-energy.com/en/details/orcan-energy-and-baseload-capital-successfully-commissioned-their-first-waste-heat-project-with-chevron-u-s-a-inc.html orcan-energy.com+4orcan-energy.com+4electricalsinformed.com+4

“スピンオフからグローバル企業へ” のIP戦略と成長ストーリー解説PDF
TUM発スピンオフにおける知財の移転、資金調達、評価、模倣防止などについて体系的に説明。特許ポートフォリオの重要性が明記されています。
https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/seminar/document/ip_and_environment/orcan-text.pdf electricalsinformed.com+2特許庁+2link.epo.org+2

TUMによる技術移転とOrcanの特許登録事例(2019年DGP技術移転賞)
ドイツ物理学会からの賞による技術移転の評価。発明発掘~特許出願~事業化までの流れと、特許取得が鍵だった点が報告されています。
https://www.tum.de/en/news-and-events/all-news/press-releases/details/35854)

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