家電大手から「ヘルステック専業」へ：戦略的大転換の裏側
かつて家電や照明の分野で世界を牽引したフィリップス（Philips）は、2010年代にそれらの事業を段階的に売却し、医療機器・ヘルステックを専業とする企業へと大転換を遂げた。この大胆な戦略の背景には、高齢化社会の進展やデジタル技術の進化に伴い、医療分野が持つ計り知れない成長性と社会貢献への可能性があった。新しい事業の柱は、診断、治療、モニタリングといった医療技術に、AIやクラウドといった先端技術を融合させること。この転換期において、フィリップスは知的財産（IP）戦略を中核に据え、医療技術分野での揺るぎないリーダーシップを確立しようとしているのだ。
フィリップスは、この戦略的転換を強力に推進するため、欧州特許庁（EPO）への特許出願を飛躍的に強化した。2022年には683件もの医療技術分野の出願を行い、欧州ではトップ、世界でも2位の件数を記録。2023年も594件のMedTech出願で再びEPOの首位を獲得するなど、診断・治療関連技術における知財を「先に押さえる」という積極的な姿勢を明確にしている。特に、がん診断、心臓画像、超音波診断、AI診断支援、在宅モニタリングといった高成長・高付加価値分野での出願を集中させている。これは、単なる出願数の多さだけでなく、診断・治療領域での知財を強固にし、市場展開とライセンス戦略を両立させる意思の表れであると言えるだろう。
AIと先端技術で「診断から治療まで」を囲い込む知財
フィリップスの知財戦略は、AIと先端医療技術を統合し、「診断から治療まで」の医療プロセス全体をカバーすることを目指す。彼らは、医療現場での課題解決に直結する技術を特許で保護することで、その事業基盤を強固にしている。
その代表例が、がん診断AIの中核技術だ。特定の特許は、時系列の超音波データからがん組織の部位を自動で識別・分類するシステムや方法を保護しており、AIによる病理診断支援の事業基盤に直結するものだ。これは、がん診断に必須の病理画像解析技術を特許化し、競合他社との差別化とライセンス先への提供を狙った重要知財である。
また、光線力学療法（PDT）用ナノ粒子技術も、フィリップスの戦略的知財の一つだ。これは、ナノ粒子を用いたPDTによるがん細胞破壊手段を詳細に記述する特許であり、がん治療分野でのニッチかつ高度な技術だと言える。この特許は、治療装置と薬剤を一体的に知財として活用できる要素を持ち、医療的治療としての技術性を裏付ける。
フィリップスは、AIと画像診断・超音波技術の統合展開にも力を入れている。超音波系装置（心臓血管やその他体内臓器向け）にAI診断技術を組み込み、装置とソフトウェアを含めて特許出願を強化している。例えば、がん診断用AIを開発するPaige社との提携を通じて、フィリップス製品にAI病理診断技術を統合。これは、ハードウェア装置とソフトウェアAIを一体化したパッケージ販売モデルを特許で防衛する戦略であり、診断AIを搭載した装置の知財価値の高さを示している。EPOにおける大量出願も、まさにこの狙いと連動しているのだ。
知財が描く「統合型医療ソリューション」の未来と市場戦略
フィリップスは、知財を「診断から治療まで」という事業の背骨と位置づけ、医療現場における統合型ソリューションの提供を目指す。この戦略の根幹には、「先に押さえる」ことを重視した知財出願主導のアプローチがある。
AIやPDTといった革新的な要素における中核特許の取得は、フィリップスの製品差別化と市場創造を強力に推進する。パートナー戦略もその一部であり、Paige社との提携のように、AI病理診断技術を自社製品に統合することで、市場導入を加速し、ハードウェアとソフトウェアが一体となった戦略を強化している。
フィリップスの知財戦略は、超音波診断装置、病理AI、PDT装置を連動させる設計において、各段階でIP保護を行う。これにより、装置ごとの分断を防ぎ、「診断・治療一体型ビジネスモデル」を強化することで、患者体験の全体最適化と特許による模倣排除を図っているのだ。これは、ヘルステック分野での収益と差別化を見据えた知財戦略であり、診断・治療系技術に焦点を当てた出願・取得を継続的に実施している。医療現場向け装置とAIソフトウェアの一括提供モデルによるライセンス展開を視野に入れた、極めて戦略的な知財の組み立てが見て取れる。フィリップスは、知財によって守られた統合型医療ソリューション事業を構築し、医療技術の未来を牽引し続けているのだ。
参考元のURL:
[1] Philips Annual Report 2023 (PDF): https://www.philips.com/a-w/about/investor/annual-report.html (※フィリップスの事業転換やEPO出願に関する公式情報が掲載されています。)
[2] フィリップスの医療技術出願に関するニュース – BioSpace: https://www.biospace.com/article/releases/philips-tops-epo-medtech-patent-filings-in-2022/
[3] フィリップス 公式サイト (ヘルスケア分野): https://www.philips.com/global/healthcare (※診断・治療・モニタリング技術に関する情報が掲載されています。)
[4] がん診断AI関連ニュース (Paige社との提携など): https://www.philips.com/a-w/about/news/archive/standard/about/news/press/2019/20190509-philips-and-paige-announce-strategic-collaboration-to-advance-ai-in-pathology.html
IP design News 
コメントを残す