肌の状態を“見える化”:資生堂の基盤技術と知財
美の追求は、一人ひとりの肌の状態を正確に理解することから始まる。しかし、その肌の状態は複雑で、肉眼では捉えにくい情報が多い。株式会社資生堂は、この課題に対し、先進的な「肌測定テクノロジー」を開発し、これを知的財産(IP)戦略の中核に据えることで、パーソナルな美容体験の未来を切り拓いているのだ。
その基盤となるのは、特開2021-122307「画像処理装置および画像処理方法」という特許だ。この技術は、スマートフォンやタブレットで撮影された顔画像から、肌の色、キメ、透明感、凹凸、毛穴の状態といった様々な肌の特性を数値化する。撮影時の背景や照明条件を補正した上で、RGB画像と独自の解析アルゴリズムを用いて肌の部位ごとにスコアを算出することで、ユーザーごとに最適なスキンケアやメイクアップ製品を提案可能にする仕組みだ。この特許の請求項は、「画像から肌の色味や透明感を検出し、個別の美容アドバイスを行うための画像処理方法」や、「肌特徴量を、対象領域ごとに取得し、スコア化し、表示する画像処理装置」に関する保護を含む。これにより、資生堂は、肌の「見える化」という体験の核となる画像解析技術と、それに基づく美容スコア化の仕組みを、強固に保護しているのである。
テクノロジーが導くパーソナル美容体験:実装とUX戦略
資生堂は、この基盤となる特許技術を、実際の製品やサービスへと効果的に実装することで、顧客への体験価値を最大化している。
その代表例が、店舗向けの「Skin Visualizer(スキンビジュアライザー)」だ。これは、顔を専用端末でスキャンし、毛穴、キメ、透明感などを3Dデータで“見える化”するシステム。単なる数値表示に留まらず、色や質感で肌状態を直感的に可視化することで、接客時に肌の状態を顧客へ分かりやすく伝え、製品提案に直接活用できる。この技術により、美容部員は「科学的エビデンス」に基づいたパーソナルなカウンセリングを提供可能となり、顧客は「なぜこの製品が必要なのか」を論理的に理解できるため、製品への信頼度が向上する。
また、アプリを活用した「Beauty DNA Program(ビューティーDNAプログラム)」も、この技術の実装例だ。ユーザーの肌状態とライフスタイルに応じたスキンケアレコメンドを、アプリを通じて提供する。このサービスも、背景にある特許技術によって、提案されるスキンケア製品の科学的な根拠が明確になるため、顧客はより納得感を持って製品を選ぶことができる。これらの取り組みは、肌データ解析技術という知財が、顧客のUX(ユーザーエクスペリエンス)を劇的に向上させ、従来の美容接客を客観的かつパーソナルな体験へと変革させていることを示す。
知財が築く「科学的信頼」:ブランド戦略と未来展望
資生堂の知財戦略は、単なる技術保護に留まらない。特許を「科学的信頼の証」として前面に出し、これをブランディングと一体化させることで、企業の市場認知度とブランド価値を飛躍的に高めている。店頭での体験型接客では、特許技術に裏打ちされた数値と可視化データ(肌スコア、色調マップ)が、製品紹介における説得力を格段に向上させる。これにより、資生堂は「肌の状態を“視覚”と“科学”で深く理解できる企業」という独自のポジショニングを確立しているのだ。
この「肌の見える化」という知財に裏打ちされたアプローチは、グローバル戦略においても重要な役割を果たす。肌解析技術の特許が、世界中の顧客に対し、資生堂が提供する美容ソリューションの「信頼性」と「体験価値」の両面を高める要素となる。資生堂の知財ストーリーは、肌の色、凹凸、キメ、透明感といった画像解析を技術対象とし、画像処理、美容スコア化、外観意匠、アルゴリズム保護といった知財構造を持つ。これを店頭でのリアルな可視化とアプリでのパーソナル提案という「魅せ方」に落とし込み、「科学的美容の証拠」として特許をブランドの最前線で活用する。これにより、資生堂は、肌データの知財を通じて、パーソナル美容の未来を牽引し、顧客との間に深い信頼関係を築き、グローバル市場でのリーダーシップを確固たるものにしているのである。
参照URL:
1. 資生堂公式ニュースリリース|「Skin Visualizer」国内展開開始
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003009
2. 資生堂公式サイト|R&D拠点「S/PARK」紹介(技術と体験の融合)
https://corp.shiseido.com/jp/rd/sq/
3. 資生堂公式IR資料|技術とブランド体験(画像診断含む)
https://corp.shiseido.com/jp/ir/library/presentation/20210208/
4. WWD JAPAN|資生堂「肌バイタルセンシング」技術を紹介(肌測定の進化)
https://www.wwdjapan.com/articles/1064257
5. TechCrunch Japan|資生堂×パーソナルAI肌解析アプリ「optune(オプチューン)」
https://jp.techcrunch.com/2019/07/01/shiseido-optune-launch/




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