特許プールで「聴く」を革新:Dolby子会社Via Licensingの戦略


「音」の未来を拓く:オープンな特許プールの挑戦

現代のデジタル世界において、高品質なオーディオ技術はスマートフォンからストリーミングサービスまで、あらゆる体験の基盤となっている。しかし、これらの技術の多くは複雑な特許に支えられており、個々の企業がそれぞれライセンス交渉を行うことは、時間とコスト、そして法的リスクを伴う大きな障壁だ。この課題を解決し、技術の普及とイノベーションを加速させるための仕組みが特許プールである。ライセンス管理の専門企業であるVia Licensing(ドルビーラボラトリーズの子会社)は、この特許プールを「オープン」かつ「参加しやすい」設計にすることで、オーディオ技術の未来を切り拓いていると言えるだろう。

Via Licensingのアプローチは、単に特許を集めて管理するだけでなく、ライセンスを受ける企業(特に中小企業やスタートアップ)が、透明で公正な条件で先進技術を利用できるようにすることに焦点を当てている。これにより、特許が技術革新の足かせになるのではなく、その普及を促進するエンジンとして機能することを目指しているのだ。


革新を加速する戦略:xHE-AACとMPEG-Hのケース

Via Licensingの特許プール戦略の進化は、具体的な二つのコア技術の展開を通じて明確に示されている。xHE-AAC(Extended High Efficiency AAC)は、Fraunhoferが開発した高効率オーディオ符号化技術であり、従来のAAC(Advanced Audio Coding)技術に「低ビットレートでも高品質な音声」と「帯域制御(DRM)」の機能を統合したものだ 。音楽ストリーミングやインターネットラジオなどで高音質かつ効率的な配信を可能にする技術として普及が進んでいる 。Via Licensingは2016年にこのxHE-AAC技術を、既存のAAC特許プールに無償で追加することを決定した 。これは、ライセンシーが既存の契約の下で別途契約を結ぶ必要なく、この先進技術を一括で使用できることを意味する 。この戦略は、「一括・明朗会計で参加しやすい」というViaのモデルを具現化し、特に小規模企業やスタートアップが、追加コストなしに先進技術を製品に取り込める環境を創出した点で画期的であったと言える

MPEG-H 3D Audioは、映画館やテレビ、AR/VRコンテンツ向けの立体音響や、個人の好みに合わせて音響体験を調整できるパーソナライズ機能に対応した次世代オーディオ技術だ 。放送やストリーミングでの普及が進んでいる 。Via Licensingは2021年6月、ドルビー、フラウンホーファー、ソニー、フィリップス、サムスンなど8社の主要企業と共に、正式なMPEG-H 3D Audio特許プールの設立を発表した 。この新たなプールでは、参加企業が対等な立場でライセンスを提供し、そこから得られた収益を分配するという枠組みが設定された 。同年11月には、サムスンが「ライセンサーかつライセンシー」としてプールに参加し、多様な業界プレーヤーを巻き込んだ運営体制が強化されている 。この戦略は、特許の数を単に集めるだけでなく、マジョリティだけでなく中小企業も参加しやすい設計を重視し、標準技術と市場普及の両輪で、透明かつ協調的な知財マネジメントを実現していると言える


知財が「エコシステム」を創る:Via戦略の意義と未来

Via Licensingの特許プール戦略の「面白さ」は、特許を独占的な権利として囲い込むだけでなく、技術の普及イノベーションのエコシステム構築に積極的に活用している点にある。

まず、小規模企業にも門戸を広げる透明な料金体系は、特許を「売る側」だけでなく「買う側」の視点も考慮した群管理の典型だ。これにより、特許運用の複雑さをViaが代行管理することで、技術を利用するための参入障壁を下げ、より多くの企業が標準技術を採用することを促している。

次に、参加者全員に恩恵がある収益分配モデルが挙げられる。特許のライセンス料が、その技術を創出した企業(特許保有者)に公正に還元される設計は、イノベーションのインセンティブを維持し、さらなる研究開発への投資を促す。これは、特許が技術革新を支え、それが市場での収益として還元されるという、健全なエコシステムの実現に貢献しているのだ。

さらに、標準化団体との調整能力もViaの大きな強みだ。彼らは、単に技術を管理するだけでなく、その技術国際標準として採用されるプロセスにも深く関与し、特許プールの枠組みを標準技術の普及と一体化させている。これにより、特許プール技術の円滑な流通を促進し、市場全体の発展に寄与するという、包括的な知財マネジメントを実現していると言える。

このように、Via Licensingの特許プール戦略は、特許をまるで「物流センター」のように効率的に管理し、標準技術の普及を促進することで、「公正な技術利用」と「正当な対価還元」を両立させている。これは、特許が「研究の成果」であると同時に「ビジネスそのもの」であり、「イノベーション」を加速させるための強力なツールとなることを示す、現代の知的財産戦略の好例と言えるだろう。

参考元のURL:
[1] Via Licensing公式サイト: https://www.via-la.com/
[2] Via Adds xHE-AAC to Advanced Audio Coding Patent Pool – Business Wire: https://www.businesswire.com/news/home/20171002005442/en/Adds-xHE-AAC-Advanced-Audio-Coding-Patent-Pool
[3] Via Licensing Launches MPEG-H 3D Audio Licensing Program – audioXpress: https://www.audioxpress.com/news/via-licensing-launches-mpeg-h-3d-audio-licensing-program
[4] xHE-AAC技術の背景とVia Licensingの戦略 – audioblog.iis.fraunhofer.com: https://www.audioblog.iis.fraunhofer.com/via-licensing-adds-xhe-aac-aac-patent-pool-license-program
[5] 5G時代の最新オーディオ技術「MPEG-H 3D Audio」と特許プール – note.com: https://note.com/ip_strategy/n/n2b662df94d2f

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