知的財産は、目に見える技術やブランドだけでなく、人間の感覚といった無形の価値をも保護し、ビジネスの差別化に繋げる強力な武器となる。医療・産業用ゲル素材メーカーである株式会社タナックは、「触感」、すなわち製品に触れた時のやわらかさ、弾力、粘着性といった感覚を科学的に数値化し、これを核とした独自の知財戦略を展開することで、確固たる市場での地位を築いている。彼らの「触感デザイン®」というアプローチは、主観的な感覚を客観的なデータと知的財産で裏付け、顧客の信頼を得る秀逸なビジネスモデルである。

　タナックは長年にわたり、医療分野における生体適合性の高いゲル素材や、産業分野で求められる多様な特性を持つ高分子素材の開発・製造を手掛けてきた。彼らが着目したのは、これらの素材が持つ機能性だけでなく、ユーザーが製品に触れた際に感じる「触感」の重要性である。製品の快適性、安全性、使いやすさは、しばしばこの触感によって大きく左右される。しかし、「やわらかい」「べたつかない」といった触感の表現は主観的であり、従来の製品開発や取引においては、感覚的な評価に頼らざるを得ない側面があった。
この課題に対し、タナックが確立したのが「触感デザイン®」という概念である。これは、ゲル素材の物理特性（硬度、粘着力、弾性など）を、人間の触感評価と結びつけ、これを独自の測定方法や評価基準を用いて数値化する技術である。例えば、専用の測定機器や試験方法を用いて、特定のゲルが指に吸い付くような粘着性を持つか、あるいは特定の力で押したときにどの程度沈み込むかといった性質を定量的に測定する。これにより、開発者と顧客の間で共有できる客観的な「触感データ」の提示が可能となる。これは、単なる素材提供ではなく、「感覚をデザインし、データで証明する」という新たな技術的価値の創造である。
タナックの知財戦略は、この「触感デザイン®」を核として多層的に展開される。まず、「触感デザイン」という独自の概念そのものを「触感デザイン®」として商標登録している。これにより、彼らが提唱するこのユニークなアプローチをブランドとして保護し、市場における認知度と信頼性の向上に繋げている。この商標は、単なる名称の使用を独占するだけでなく、その背後にある技術力と品質保証の証として機能する。

　さらに重要なのは、彼らが持つゲル素材に関する技術、そして触感を制御・評価するための独自の方法や装置に関する特許権である。特定のやわらかさや粘着性を実現するゲル組成物、あるいは求める触感を持つ素材を効率的に製造するプロセス技術などは、特許として保護されるべき核心的な発明である。これらの特許は、「触感デザイン®」によって提示される数値データを、どのようにして物理的な素材として実現するかという技術的な基盤を保護する。特許によって守られた独自の技術力があるからこそ、タナックは顧客の要望に応じて特定の触感を正確にデザインし、安定的に供給することが可能となる。これらの特許情報は、タナックの技術力の高さを客観的に示す証拠となり、特に品質に厳しい医療分野や産業分野の顧客からの信頼獲得に大きく寄与する。

　このように、タナックは主観的な「触感」を独自の技術で定量化し、その概念を商標で、それを実現する技術を特許で保護するという、統合的な知財戦略を実行している。この戦略により、彼らは単なるゲル素材メーカーではなく、「触感をデザインできる専門家」としての独自の立ち位置を確立した。顧客は、感覚的な要望を具体的な数値で伝え、タナックはその数値を実現する技術力と、それが知的財産によって裏付けられているという安心感を提供する。この「感覚の定量化」と「知財による信頼性担保」というユニークな組み合わせが、他社との明確な差別化となり、顧客からの高い評価と継続的な受注、ひいてはビジネス全体の拡大に繋がる。タナックの事例は、無形の「感覚価値」を知財戦略によって可視化し、競争力に変える革新的なアプローチを示すものである。

参考元のURL:
* 株式会社タナック 公式サイト: https://www.tanac.co.jp/ (公式サイト内の技術紹介や製品紹介ページなどに触感デザインやIPに関する記述がある可能性があります)
* 特許情報プラットフォーム J-PlatPat: https://www.j-platpat.inpit.go.jp/ (タナック株式会社を権利者として検索することで、関連特許情報を確認できます。※個別の特許番号特定は検索結果によります。)
* 登録商標「触感デザイン」関連情報（J-PlatPat 商標検索）: https://www.j-platpat.inpit.go.jp/ (商標「触感デザイン」を検索することで、登録状況を確認できます。)