ゲーム界揺るがすIP論争:パルワールドと任天堂、訴訟中の攻防

 2024年1月のアーリーアクセス開始以来、世界中で爆発的な人気を博した株式会社ポケットペア開発のゲーム「パルワールド」は、その成功と同時に、任天堂株式会社が展開する「ポケットモンスター」(ポケモン)シリーズとのキャラクターデザインやゲームシステムにおける類似性を巡る知的財産権(IP)侵害の可能性に関する議論を引き起こした。インターネット上で多くのユーザーから類似性を指摘する声が上がったことを受け、任天堂側の対応に高い関心が寄せられる状況が続いた。この騒動における両社の動き、特に現在進行中の特許侵害訴訟、両社の知財戦略、そして現在の状況は、ゲーム業界における模倣と創造の境界線、そしてIP保護のあり方を考える上で極めて重要な事例となっている。

 パルワールドのリリース後、瞬く間にユーザー間で交わされたのは、ゲーム内に登場するクリーチャー「パル」のデザインが、ポケモンのキャラクターと驚くほど似ているという指摘だった。この類似性の度合いを巡る議論はSNSやゲーム関連コミュニティで加熱し、メディアでも大きく取り上げられる事態に発展した。こうした状況に対し、パルワールドを開発したポケットペアの溝部拓郎CEOは、ゲーム開発にあたり事前に弁護士などの専門家によるリーガルチェックを実施し、特定の他社IPに関する法的な問題がないことを確認したとの見解を示している。これは、パルワールドが模倣ではない、独自のゲームであるというポケットペア側の初期の主張を裏付けるものと言える。

 多くのユーザーからの問い合わせや類似性の指摘が相次いだことを受け、任天堂は2024年1月25日に公式サイトを通じて声明を発表した。その中で任天堂は、「株式会社ポケモン」が、他社が発売したゲーム(パルワールドを指すものと広く解釈されている)に関して、任天堂が保有するポケモン関連の「著作権などの知的財産権」を侵害していないか調査を行っている事実を明らかにした。そして、調査の結果、知的財産権の侵害が認められると判断した場合には、「法的措置も検討し、適切に対応してまいります」と表明した。この声明は、任天堂がこの状況を単なるユーザー間の話題として片付けず、自社の重要なIPであるポケモンに対する侵害の可能性について、公式な調査を開始し、必要であれば法的な手段も辞さないという強い姿勢を示したものだ。

 しかし、その後のポケットペアの公式X(旧Twitter)アカウントからの投稿により、この状況に具体的な進展があったことが判明した。ポケットペアは、「現在提起されている特許権侵害訴訟において、『パルワールド』は原告が主張するいずれの特許も侵害していないと確信し、継続的な対応を取っている」と明言。さらに、「原告の特許はいずれも無効であるとの主張も行っている」と述べた。この投稿は、任天堂の初期声明では不明確だった「法的措置」が、実際に「特許権侵害訴訟」として進行している事実を初めて公にしたものである。訴訟の原告が誰であるか具体的な言及はないものの、これまでの経緯から任天堂(または関連企業)である可能性が高いと推測される。

ポケットペアは、訴訟の進行状況に左右されることなく、今後も『パルワールド』の開発と配信を継続できるようにするための「予防的な措置」として、いくつかの仕様変更を実施したことも明らかにした。これは、『パルワールド』が特許を侵害していないことをより明確にする目的での対応である。具体的には、2024年11月30日に公開されたパッチv0.3.11では、「パルスフィアを投げてパルを召喚する」機能を削除し、代わりに「プレイヤーのそばに直接召喚する」仕様へと変更された。この変更は、多くのユーザーから指摘されていたとおり、今回の訴訟対応に伴うものであり、予防的措置であることから、訴訟において従前の仕様が特許を侵害していないことが明確に認められるまで、変更された仕様を元に戻すことはないとポケットペアは説明している。さらに、パッチv0.3.11の後も同様に予防的な措置として、特許権侵害との指摘を受けている仕様について変更が加えられ、直近ではパッチv0.5.5において、グライダーパルによる滑空を、パル自身ではなく、アイテムのグライダーを使用して行う方式へと変更される予定である。これらの仕様変更は、開発チームにとって心苦しい決断でありながらも、『パルワールド』の開発・配信の継続のために必要な措置であると判断した結果である。

 任天堂は、ポケモンという世界的に巨大なIPを保護するため、著作権、商標権、意匠権、そしてゲームシステムに関する特許権など、あらゆる知的財産権を駆使した多角的な戦略を展開している。過去にも、ポケモンのキャラクターや関連デザイン、ゲームシステムを模倣した製品やサービスに対して、国内外で厳正な法的措置を講じてきた実績は数多い。今回のパルワールドに対する一連の動きは、任天堂が自社IPに対する潜在的な脅威に対して、常に高い警戒心を持ち、迅速かつ断固たる対応をとるという、彼らの確立された知財保護戦略に基づいた動きである。彼らにとって、ポケモンのブランド価値とクリエイティブな源泉を守ることは、事業継続の根幹に関わる課題である。

 現在、ポケットペアの発表により、任天堂(と推測される原告)とポケットペアとの間で、パルワールドに関する「特許権侵害訴訟」が実際に係争中であることが確認された段階である。任天堂がこの訴訟においてどのような特許権侵害を主張しているか、そしてポケットペアが主張する特許の無効性が裁判所でどのように判断されるかが、今後の焦点となる。キャラクターデザインの類似性が主に著作権や意匠権の範疇で語られてきた一方で、具体的な特許訴訟が進行していることは、このIP論争の複雑性を一層深めるものと言える。

 パルワールドと任天堂を巡るこの騒動は、単なるゲームの類似問題を超え、デジタルコンテンツが容易に模倣されうる現代において、いかに知的財産権が重要であり、その保護と活用のバランスをどのように取るべきかという、IP実務家にとって深く考察すべき多くの論点を提供している。現在の沈黙は、水面下での訴訟対応や調査が慎重に進められている証であり、両社の知財を巡る攻防は静かに続いている。

参考元のURL:

【係属中の訴訟に関するパルワールドの仕様変更と今後について】 – Palworld / Palworld JP公式Xアカウント: https://x.com/Palworld_JP/status/1880000000000000000 (※実際の投稿URLは日付により異なります。公開された日付の投稿をご確認ください。ここでは例として仮のURLを記載しています。) 任天堂、ゲーム「パルワールド」巡り法的措置も検討 著作権侵害の可能性で声明「適切に対応」(フジテレビ系(FNN)) – Yahoo!ニュース: https://news.yahoo.co.jp/articles/02f3a2160b5c85cccad5fee25d5f179a19e86930 ポケモン酷似で任天堂が調査開始…「パルワールド」問題の法的論点、差止請求や損害賠償は可能?(弁護士小野智広) – Yahoo!ニュース: https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/302010f0076b80c35b396416621537e1e0b93952 「パルワールド」はなぜ訴えられない? ポケモンとの類似問題、著作権侵害の可能性を弁護士が解説 – KAI-YOU.net: https://kai-you.net/article/88861 「パルワールド」類似騒動、任天堂が調査に言及。「適切な措置を講じてまいります」 – Impress Watch: https://jp.watch.impress.co.jp/docs/news/1564445.html ポケットペアのCEO、話題の新作『パルワールド』が「リーガルチェック済み」だと強調。想定以上の反響、懸念に対し法的な問題がないと報告 – AUTOMATON: https://automaton-media.com/articles/newsjp/20240120-280327/

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