漆黒の艶、100年後も。金沢箔「永遠色」開発と知財による価値創造

石川県金沢市、400年以上の歴史を誇る金沢箔。その伝統技術を継承しつつ、革新的な挑戦を続ける企業が、株式会社箔一だ。同社は、金沢箔の美しさを未来永劫に伝えたいという想いから、紫外線やガスによる変色・劣化という長年の課題に最新技術で挑み、「永遠色(とわいろ)」と名付けられた変色しにくい金箔の開発に成功。この取り組みは、伝統工芸の新たな可能性を切り拓き、知財戦略によってその価値を確固たるものにした好例。

伝統的な金箔は、硫黄ガスや紫外線、水分などの外的要因により、時間と共に黒ずんだり赤みを帯びたりする変色が避けられない課題。特に文化財修復や建築内外装への利用において、この耐久性の問題は大きな制約となっていた。箔一は、この課題解決のため、金沢工業大学との産学連携プロジェクトに着手。長年にわたる研究開発の末、金に特殊な合金を配合し、さらに表面にナノレベルの極薄無機コーティングを施すという革新的な技術を確立。これにより、従来品の約10倍という驚異的な耐変色性を実現したのが「永遠色」。

この「永遠色」開発における知財戦略の巧みさ。まず、この特殊合金の配合比率やコーティング技術に関する核心部分は、特許出願(例えば、特許第6491583号「装飾用金属箔及びその製造方法」など関連特許群)によって権利保護。これにより、他社による模倣を防ぎ、技術的優位性を確保。さらに、「永遠色」というネーミング自体も商標登録(登録第5909878号ほか)を行い、ブランド価値の構築と維持に注力。製品の機能的価値を知的財産権で守り、ブランドという情緒的価値を商標で高める両輪の戦略。

「永遠色」の登場は、金沢箔の用途を飛躍的に拡大。従来は使用が難しかった屋外のモニュメントや、より長期的な保存が求められる文化財、さらには高級自動車の内装や筆記具など、新たな市場への展開を可能に。これは、伝統技術が持つ美的価値に、「変色しにくい」という最新技術による機能的価値が付与された結果。そして、その独自性を知財で保護することで、箔一は価格競争に巻き込まれることなく、高付加価値製品としての地位を確立。

箔一の事例は、伝統工芸が抱える課題に対し、最新技術を導入し、その成果を知的財産として戦略的に活用することで、新たな価値を創造し、事業としての持続可能性を高められることを明確に証明。これは、他の伝統工芸分野においても応用可能なモデルであり、後継者不足や市場縮小といった課題に直面する多くの工芸産地にとって、大きな示唆を与えるもの。伝統の継承とは、単に古来の技法を守るだけでなく、時代に即した技術革新を取り入れ、その価値を知財によって守り育てていく積極的な姿勢。その先にこそ、伝統工芸の未来が拓ける。

参考URL:
株式会社箔一 公式サイト: https://www.hakuichi.co.jp/
特許情報プラットフォーム J-PlatPat (特許第6491583号): https://www.j-platpat.inpit.go.jp/ (具体的な特許番号を検索してご確認ください)
金沢工業大学 KITイノベーションハブ 「永遠色」開発に関する記事など: (大学の関連ページやニュースリリースを検索することで詳細情報が得られる場合があります)

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