日産とトヨタの知財戦略比較 特許1件あたりのR&D費に3倍の差

 日本を代表する自動車産業の中で、日産自動車と業界最大手のトヨタ自 動車の知財戦略を特許データやIR資料を基に比較分析した。企業の特許出願は国内外で行われ、公開公報を通じて件数や発明内容が確認できる。特許データベース(J-PlatPat)を活用し、過去4年間の特許成立件数を調査。両社の特許取得状況や研究開発費の違いを通じ、自動車業界全体に共通する知財戦略の特徴と、両社の独自性を明らかにした。

(出所:J-PlatPatのデータを基に作成)

(出所:J-PlatPatのデータを基に作成)

 トヨタと日産の特許規模の比はおおむね毎年7:1である。

海外へ直接出願多用のトヨタ、日産との違いが鮮明

 自動車メーカーの海外特許出願には、「直接出願」と「国際特許出願(PCT)」の2つの方法がある。PCT出願は一度の手続きで複数国に出願できるが、自動車業界では利用が少なく、競争が激しい米国、ドイツ、中国などに直接出願する傾向が強い。直接出願は各国の制度に最適化でき、強力な特許権を得やすい。

トヨタはこの直接出願を積極的に活用し、2024年の米国での特許公開約3000件のうち、PCT経由はわずか150件。一方、日産はPCT出願を比較的多用し、日本特許庁を経由せず直接PCT出願後、30カ月以内に主要国へ移行している。PCT出願は出願先を慎重に選べるほか、翻訳や修正の柔軟性といった利点がある。

PCT公報件数の比較

PCT公報件数の比較

(出所:J-PlatPatのデータを基に大熊国際特許コンサルティング事務所が作成)

特許1件当たりの研究開発費、トヨタは2.9億円

企業の研究開発投資を評価する際、よく使われる指標が「売上高研究開発費率」で、企業の技術力や開発への意欲を示す。過去4年間の平均では、トヨタの研究開発費は約1兆1000億円と日産の2倍だが、売上高に対する割合では日産(5.3%)がトヨタ(3.3%)を上回った。

しかし、研究開発の効率を考えると別の見方ができる。研究開発費を特許取得数で割り、「特許1件当たりの研究開発費」を算出すると、トヨタは約2.9億円、日産は約8.7億円。トヨタは日産の3分の1のコストで特許を取得している。日産の数値は国内他社と比べても突出しており、2番目に高いスズキでも4.6億円だった。

ただし、この結果だけで日産の研究開発効率が悪いとは言えない。特許出願の方針や、秘匿を選ぶ発明の割合、現場起点のアイデアなど、企業ごとの戦略が影響している可能性がある。今回の数値はあくまで比較の参考と捉えるべきだ。

自動車業界は積極的に特許を取得する一方で、自社で実際に活用している特許は少ない。特許庁の調査(2023年)によると、「輸送用機器製造業」では保有特許のうち利用率は43%にとどまり、57%は未利用。これは17業界中4番目に低い数値で、2021年にはさらに低い26.7%だった。

一方、他社に特許を使わせる「開放特許」の割合は高く、2023年は34.8%、2024年でも22.8%と、他業界に比べて桁違いに多い。例えば、情報通信業界は2.2%、電気機械業界は9.2%と大きな差がある。つまり、自動車業界は特許を囲い込むより、他社にも活用させる柔軟な姿勢を持っている。

出典元:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03093/021300001/?P=2